(6)100%たとえ話『植物星から来たお花星人 お花レモンちゃん』その6

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二話目
三話目
四話目
五話目




花びらの中から出ている顔でコミュニケーションを取りながら、元気に花粉を振りまき、花の香りで蜂が寄ってくる、お花レモンちゃん。地球の人間社会に適応しようとしてる。

暖房と水のある家に住み、養分のサプリメントを買うために、企業に入って働きます。




通常、植物の発芽の際に、種子の殻は自然に外れて、落ちる。発芽が始まるまで胚を守る役目を終えた殻は、自然に取れると、『お花レモンちゃん』一家の全員が思っていた。

『メイメイ』の殻がまだ取れない。

殻がすこぶる頑丈なのかと言うと、そうでも無いらしい。『セント』『ネクタ』が発芽したころから見守ってきた『オシベ』によると、他の兄妹となんら変わりの無い殻だという。

でも、殻に耳を当てると、殻の中から「ガサゴソ、ガサゴソ」と、足を動かす音がする。

『お花レモンちゃん』たちが耳を当てていると、『メイメイ』は両手をパタン、バタンと振り下ろし、キャッキャツと笑い声をあげる。

「人間の子どもの育て方は、テレビにもネットにも情報がいろいろあって、歩くのが遅くても慌てなくていいとか、あれしながら待ってればいいとか、いろいろあるけど、植物星人の場合はなにも分からないね~。」

「でも慌てるっていつもしないから、『メイメイ』のことでも私たち慌てなくていいんじゃない

「うん。『メイメイ』は嫌がっていないし、機嫌がいいから、ぼくたちが悩むのもしたくない。」

「そうね……」

『お花レモンちゃん』は、弟妹たちの意見を聞きながら、自分も悩んでもしょうがないのではないか、という気持ちになりかけていた。でも、一つ、口に出して言わないと、胸に引っかかってしょうがない心配事はあった。

「四足歩行の動物たちって、出産で生まれてからすぐ歩き出すのよね。危険が迫った時に逃げられるように、生き残れるように、という理由だっていうのよ。」

「『メイメイ』両手使って転がってるでしょ。」

「でも、転がるよりも、走る方がスピードは速いよね。でもいつか殻が取れるでしょ。それまでは私たちが抱っこして守るわよ。」

『セント』が、みんなが思っていたことを代表して言って、一家は安心した空気になった。


夜。子ども部屋の窓は網戸になっている。

地球の植物同様、植物星人たちも、自然の夜風にさらされながら寝るのが自然体なのだ。

リビングは、朝まで開放してしまうと、空気中の水分が夜風に冷やされて落ちる、"夜露"が落ちてびしょびしょになったことがあり、さらに虫の死骸もいくつもあり、窓を開けないことになった。

フローリングのリビングが濡れていてもノーダメージで、植物には知ったことではないのだが、リビングは人間が来た時に招き入れる場所であるので、人間社会に適応したい『お花レモンちゃん』のルールとして、汚さないことにしているのだ。


「なーつーもー ちーかづーくー はーちじゅーう はーちーや🎵……」

『セント』と『ネクタ』は、テレビなどで人間の歌を少しずつ覚えてきた。

『ヨウヨウ』も一緒になって、まだ言葉のようには聞こえない声を出し、体を動かす。『ヨウヨウ』も、着実に人間の❝文化❞を吸収している。

「この歌はどういう意味なんだろうねえ。」

楽しいから覚えたけれど、この歌がどうして存在するのか、知らないことに、三人は気が付いた。

『お花レモンちゃん』が話し出した。

「人間はね、昔から植物の葉や茎をもぎ取って、……摘む、っていう言い方をしてるけどね。長持ちするように、乾かしたり、炒ったりして、お湯に溶かし出して飲むのが好きなのよ。とくに❝お茶❞って呼ばれる葉と茎には、人間の喜ぶ栄養がたくさん入っていて、人間の口で美味しいと感じる味があるって、大昔の人間が気が付いたの。人間の取りやすい場所を決めて、❝畑❞を作って、同じ植物ばっかり、たくさん植えてから、もぎ取ってるの。一番美味しい葉と茎が取れるらしいのが、2月から数えて88日目、だから嬉しいな、って言いたいんでしょうねえ。」

「❝お茶❞さんは あげるよ、って言ってるの 」

「さあ 水をくれて、日に当ててくれて、虫を取ってくれて、気持ち良く生かしてくれるから、嫌とは言わないと思うけれど、地球の植物ってなにも言わないから、黙ってまた伸びるみたいよ。ここの植物はみんなそうなの。なにされてもなにも言わない。」

どうして2月から数えるのか、とか突っ込むところがたくさんあることを、子どもたちはまだなにも気づいていなかった。

疑問にだれかが答えてくれた、それでもう、『セント』、『ネクタ』、『ヨウヨウ』の今日の知性の成長は好奇心の限りに伸び切った。

人間の文化が、着々と根付く。先祖が空から落ちてきて、地球上で生まれた、植物星人の頭脳に、根付いて育っていく。


「寝よう 寝よう 」「おやすみなさい……」

パジャマを着た6人は、ラグマットの上に並んで横になった。

夜風が花びらをわずかに揺らす。





ドン  ガシャーン ガンガーン


深夜のリビングに、雷のような暴力的な音がした。

窓ガラスを割って先にリビングの中に放り投げておいた缶を目がけて、人影がよじ登ってきた。リビングの窓の中に、黒いシルエットが出て来て、それは見る間に全身をあらわにした。

物音に目を覚ました『お花レモンちゃん』が、リビングに出ていくと、黒い人影が仁王立ちになって、ピンクの毛虫のぬいぐるみに粒状の物を振りかけていた。

「なに なに なに 」

ピンクの毛虫のぬいぐるみの大笑いしている大口に、粒状の物がザラザラと注がれていった。

「『お花ちゃん』 」

人影からは『お花レモンちゃん』に聞き覚えのある声がした。

その人影は、プリッコだった。

「なに なに 」

「自分が社会で受け入れられてるなんてね、働けば受け入れてくれるなんてね、大間違いなんだからねっ

プリッコの言葉を最後まで聞かないうちに、『オシベ』が『お花レモンちゃん』を子ども部屋に引きずり戻した。

「お姉ちゃん 危ない 戻って 戸を閉めて 」

『オシベ』と『お花レモンちゃん』が戸を閉めると同時に、扉の向こうからプリッコは体当たりして来た。

ドカーン ドカーン

「キャーッ やだこわいーっ やめてーっ 」「こわいこわいーっ 」「ギャアー 」

他の弟妹たちも全員飛び起きた。壁に身を寄せて泣いて怖がっている。

はっ と我に返った『セント』が、戸を押さえている兄と姉に気付いた。

「私も手伝う。」

立ち上がって近寄りかけたのを『オシベ』が止めた。

『近くに来るな 危ない匂いがする。この人間は毒を持ち込んできた 』

プリッコは力任せに戸を殴って蹴っていた。

「『お花ちゃん』が反省することなの 分かってる 植物星人が人間社会で暮らすってどういうことだか 植物が人間と暮らすってどういうことだか 『お花ちゃん』はみんなともっと仲良くしないと 分かっていないんだからあ 」


リビングの下の駐車場に、パトカーが到着した。

物音に気が付いたアパートの住人が110番通報した。

電灯の着いていないリビングの壁に、赤いライトと青いライトの光が入ってきてぐるぐる回る。

割れた窓ガラスを見つけた警察は、大家から鍵を借りて、窓と玄関と両方から手際良く入ってきた…………。





翌日、『お花レモンちゃん』は、普段は引き籠って出てこない上司たちの元に呼び出されていた。

「どうして警察には自分の過失だって話さなかったの ……ハクション……人間社会はね、忖度っていう思想があるの。……ハクション……いや思想っていうか仕事なの。忖度は。ビジネスマンみんなの仕事。言われてなくても先回りして、会社を守って当然なんだよ ……ヘックション 」

「気が利きませんでした。すみませんでした。」

「ハクション……ハクション……警察は民事不介入で立ち去ったから良かったけれど。……ハクション……植物星人は被害届とか出す立場じゃないでしょ。出してないんだよね 植物でしょ。もし出したら、あり得ないからね 出過ぎた真似するところだったんだよ 被害者ではありません ……グッシャン 」

「はい」

「植物星人に被害有りません。ストレスはありません ……ハクション……だから花粉も出ないよね 」

「はい」

「花粉は出てません ……ヘックション ……あのマスクの時代はもうたくさんだ。ワクチンが出来て終わったんだ……ヘックシッ

「………」

『お花レモンちゃん』は、コロナ新型肺炎世界的流行の時期を知らない。ネットで、過去に世界中の人たちがマスクをした時期があって、多くの人間がマスクがトラウマになっているという知識を知っただけだ。

「ヘックション……きみにストレスはありません。……ヘックション……花粉は出ません。だから会社経営に支障は一切……クシュッ……ありません。……ハーックション 」

「はい」

「戻って良……ヘックシッ……良し。」

「申し訳ありませんでした。失礼しました。」

取り押さえた警察がプリッコから聞き出したことは、『お花レモンちゃん』の弟妹たちをプランターの植物のように間引きしてみたかった、ということだった。

なんでも、谷に突き落として這い上がってくるように『お花レモンちゃん』を、人間社会の会社員として育てなければならない、だから間引きにも耐えられる強い心を持たせなければならない……………とかなんとか、ギャーギャー叫んだ後、除草剤の缶を引っつかんで、立ち去ろうとした。

だから、警察はそのままプリッコを逃がしてあげた後、『お花レモンちゃん』に被害届を出すか と聞いた。

しかし、駐車場に出て来ていた大家始め、アパートの住人たちが、「植物星人にはまだ政府が人権をあげていない。近所に植物星人がもっと増えて、自分たちが鼻炎や肺炎になったらどうしてくれるんだ 」と、口々に警察に詰め寄り、『お花レモンちゃん』がなにもしゃべらないまま、被害届の話も無くなり、その場は解散になった。

ただし、SNS時代なので後から、どこからなんの情報が出てくるか分からない。他人の家に押し入る行動をするプリッコが、他にも警察騒ぎになったことが無いか、会社に確認だけは入った。

上司たちは当然、不快極まりない気分になった。

だから『お花レモンちゃん』が呼ばれて叱責を受けることになった。


プリッコは、自分のデスクでスマホをスクロールしていた。

「もうちょっと……もうちょっとしたらプリは全部うまくいくんだよっ もうちょっとなんだよっ だってこんなに可愛いプリが努力してるんだもん。『お花ちゃん』が自業自得なんだよ。みんながムカつくんだよ。『お花ちゃん』が悪いんだよ。植物はね、間引きぐらいされても動じないの。気にしないの。『お花ちゃん』も慣れなきゃだめ 思い知らせてやるの だから襲っていいの。いいんだよね。プリは可愛いんだよ……雑誌見て、エステ行って、メイク道具買うし、流行ってる服も買うし、ネットで調べて好かれる婚活女子のこと真似してる。可愛くなる。勝ち組になる。だってプリはすごいんだもんっ……」





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