(7)100%たとえ話『植物星から来たお花星人 お花レモンちゃん』その7

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四話目
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六話目




花びらの中から出ている顔でコミュニケーションを取りながら、元気に花粉を振りまき、花の香りで蜂が寄ってくる、お花レモンちゃん。地球の人間社会に適応しようとしてる。

暖房と水のある家に住み、養分のサプリメントを買うために、企業に入って働きます。




『お花レモンちゃん』一家は、以前行った100均の店のあるショッピング街へ行った。

カーテンを買った。

「お姉ちゃん、メートルってなに」「お姉ちゃん、遮光ってなあに

子ども部屋の短いカーテンと、リビングの長いカーテン。夜はこれをすれば外から見えない。

一家がホクホクしてアパートの共同玄関に着いたときだ。


3人いた。

たまたまそこで立ち話していた雰囲気の人間3人。3人は一斉に『お花レモンちゃん』一家を見た。

「こんばんは。失礼します。」

3人の間を小さくなって通ろうとする『お花レモンちゃん』の後に続いて、5人の弟妹たちも通ろうとした。

「困るんですけどね。警察を呼ぶような事件はもう 」
「危険な薬剤を持ち込んだんですって そんな危険な場所から毒物を買い込むような人に恨みを買ってるんですか
「うちには子どももいるんですよね。人間の子どもがもし巻き込まれたらどうするんですか 知らずに手で触ったり遊んでしまったら、命に関わるじゃないですか

アパート住人から苦情が来た。

即、『お花レモンちゃん』は回れ右をして、3人の住人に深く頭を下げた。「お騒がせしてしまい申し訳ありませんでした。」

弟妹たちもこの空気がよく解らない顔のまま、『ヨウヨウ』『メイメイ』以外は姉にならって頭を下げた。

「謝って危険が無くなるなら悩みませんよ。悩まなくて良くなるようにしてください。大家さんも家賃が必要でしょうし、今すぐとは言いませんが、危険なく住める場所を他に探し始めてもいいんじゃないかしらぁ。」


週末。

『お花レモンちゃん』は一人でショッピング街の近くの不動産屋へ行ってみた。

ガラスに貼ってある空き家の間取り図の紙を順に見てみる。何枚か見ているうちにだんだん読み取り方が分かってきた。

近くに貼ってある、蛍光オレンジ色付きの紙が目に入った。太い字で印刷されてあった。

『植物星人は利用できません』





自己保身したい上司の指示で、❝なにごとも無かった❞ことにした会社だったが、

結局、警察騒ぎを起こしたことは、プリッコが我慢できずに自分で触れ回ってしまうことになった。

オフィスの扉 バン 『お花レモンちゃん』のデスクにも バン

「自分が被害者だと思ってるでしょ 大間違いだから 会社の全員、プリのこと犯罪者って思っていないし『お花ちゃん』が悪いと思ってるんだからね

プリッコの髪は、いつもほど内巻きが決まっていなかった。よく下瞼に付いているキラキラ光るメイクが、片方しか付いていなかった。少なくとも、いつもの無敵のオシャレに集中する精神状態ではなかったことを身だしなみがわずかに示していた。

「『お花ちゃん』は会社のみんなを傷つけてるの。迷惑を掛けているの。さんざん、だれもかれもが、上司の人たちも、自分の時間を犠牲にして、話し込んできたから、知ってるよね

社員たちが小さい声でささやきあう。

「業務時間で……ヘックシ……えんえんと説教してきたのはプリちゃんだけ……」「クスクスクス………ハックション

もちろんプリッコと『お花レモンちゃん』2人には聞こえていない。

「人って能力それぞれだからぁ、個人差があるのは仕方が無い。迷惑を掛けてしまうメンバーって、大抵の集団で出るものっていうよね。問題はぁ、そういう落ちこぼれがどうするかってことでぇ、落ちこぼれが落ちこぼれのままでいるんじゃなくってぇ、周囲の役に立ちたいって、心から思えるかどうかでぇ。………返事無いの 」

「はい。」

「必要とされたいよねぇ 自分は会社の一員として認められてるのかなって。認められたいって、求めて求めてやまないよねえ 特に植物っていうハンデを自覚してるなら、なおさらだよねえ 違う そうなの 答えを聞きたいなあ プリは犯罪してないよ。コミュニケーションしただけだよ。除草剤持って家に侵入しましたけどぉ 人間相手じゃ無いから犯罪には問われませーん コミュニケーションなんだからねっ だから本当は警察呼ばれるようなことじゃないの。でも過ぎたことってもう関係無いよね こやって言いたいこと言うのも人間社会に適応できるように指導してる愛情なんだから理解するように。ブリはね、隠し事とか内緒とか、そういうの嫌いだから 」

「はい。」

「じゃ理解した結果としてなにをやって見せるか なにやって見せるか なーに なーに 分かんなければ聞かないの なんのための知性 たーだーのーお飾り この花びらとおんなじ おーかーざーりー 」

プリッコは、『お花レモンちゃん』の顔の回りの花びらを、まるで人間の胸倉をつかむように掴んでグラグラ揺する、どこから見ても明らかなハラスメントをした。

花びらと顔の間の隙間から、スプレーを押したかのように花粉がシュワーッと噴き出した。

「ハックション……グシャン…グシャン
「やめて……ハーックション……やめてくれ……ハックション
「いい加減……ハックション……もう嫌ハックション 」
「……クシャンクシャン……どうにかして

「すみません。なにをすればいいですか なにをさせていいだけばいいですか

「なんで聞くの 聞けば済むと思ってるの だから聞いたでしょ、その知性はお飾りですかって それがそんな言われ方するなんてプリ傷ついた


給湯室の女子の噂話は長引いた。

オフィスを換気している間、女子社員のだれもがデスクに戻りたくなかった。

「あれだけ攻撃されたら、あの植物星人も折れるのかな 」

「折れるって 」

「植物星人の兄弟を捨てるのかな 知らんけど。まずは人間様の言うとおりにするってそういうことじゃん。」

「知らなーい クスクスクス 」

「やだもうなんでもいいから定時に帰りたーい ねえねえ駅前のサラダバーの店、ちょっとオシャレじゃない 」

「えええー あのサラダつまみにしてお酒も飲めるって店 違うつまみがいい………」

「店員イケメンってインスタに書いてあったよ 行っちゃう 」

そこへ、自分の噂話が打ち切りになったのを察知したかのように、プリッコが入ってきた。

「有休取って連れてきた弟妹たちをペットのように捨てるとか 家族も大切に出来ないでなにが知的生命体だっていうのよ 思い上がるなってのね 」

プリッコの中で、そ の 時 だ け は 空想は勝手に膨らみ続ける。ダブルバインドであっても、問題では無いのだ。

『お花レモンちゃん』が会社で働き続ける限り、プリッコの頭には脈略の無いどうでもいい怒りの血潮があがり続けるのだ

面倒くさいので社員たちはプリッコの話を茶化しつつも全部聞き入れてあげる。

「そうよねー。私たちならともかく、植物星人同士なら家族は捨てられないわよね~ 本当に捨てたらそのほうが怖いわよね~ 」
「なになに捨てようとしてるの やっぱり植物よね どうでもいいけど。」
「コミュニケーションしに行って警察に捕まったってなに 呼ばれただけでしょ 」
「でもちょっとなにそれまるでストーキングー ちょーこわーいー 」

「警察に捕まる思いしたの プリ怖かったの もう言わないで でも言って てへぺろ 」

男性社員たちは喫煙室や、社員食堂や、立ち飲み屋で、10年前のプリッコの乱心のひどさを噂していた。

「10年前のプリッコはほとんど新人の若い女の子じゃん 真面目な男ほど振り回されて、会社の中で殴り合いの喧嘩になるわけよ 」
「上司に呼び出されて反省会しても、今と同んなじなんだよな。プリッコが泣いて帰ったら回りの男たちが集団で代わりに言い訳考えてあげたり、解釈考えてあげたり、説明してあげたりして、翌日になったら社内に出される指示がことごとく変わってしまうっていう。」
「本人いないところでみんなでお察しして、お察しが集まるから正しい答えが無くてひどいのなんの。」
「段取り組んでやってたことを始めから仕切り直し。どこでだれが流れを変えたかもう分かんないって 」
「そんなのばっかりだから、オレは定時に帰りたい、でもう頭をいっぱいにすることにしたよ。だれがターゲットになっても、当番制で回っているようなもんだもん。助けたり、間違いをたどったりしないよ。もうたくさんだから 」





女子社員たちは、プリッコを避けながら退勤して、給湯室で話し合ったサラダバーに集合した。

「コロナは地球上の内輪から出てきた病気でしょ だから文句はあるけど仕方なく自粛したよ。在宅もしたよ。でもやっぱり宇宙人までまだとても人間は受け入れられないわ。」

「地球外生命体っていわゆるエイリアンじゃん エイリアンと早く会いたいっていうさ、SFな人たちは世界中にいたけど、来たら分かったわ。とても受け入れてなんかいられない。面倒見切れない。地球の内輪で手いっぱいだわ。もういらな~い。」

「救世主してくれるわけでもない、核兵器みたいなので武装してくるわけでもない、なにしに来たんだか分かんない連中はボケッとしてて邪魔くさい。腹だけ立ってくるわ 」

小声の提案が出された。

「ねえこの後、焼き鳥も行かない サラダも美味しいんだけどさー、お酒にはやっぱ違う物のほうが………」

だれからも返事は無かった。イケメンを探すことも忘れ、女子社員たちは人間社会の隙間に落ちてきた、思いもよらない宇宙人の取扱いについて語ることで、頭が一杯だった。

「植物人間てさ、メンタル構造どうなってるのかな。花粉が出るからストレスがあることは分かってきたけど、溜めて溜めてさ、病まないのかな。病んで辞めないのかな。人間ならある程度でメンヘラになるよね~

「人間ならメンヘラ 豚も魚も人間様の都合で毎日しんでんだよ。もう文句があっても無くてもしんどけよこの植物が って感じだわよねぇ 」

「代わりはいないけど。」

「いらねーよ でも帰りたいわよ 定時に。」

「わかるぅ~ 定時に帰りたいわよ 」

「とりあえず、あいつオフィスから時々出さない 雑用でもさ、オフィスから出てやる用事を、上司が言い付けた形にさ……だれか上司を言うなりに出来る人いない 」

「上司の弱み握ってる人ってことぉ プリッコくらいしか知らなーい 」

「ああプリッコねー。10年前、メロメロだった男がさー、今は偉くなったもんねー。………無理か。」

「いやそうでもないかもよ。私たちが知ってることを集めれば、弱みの一つ、二つ、三つ、出来ないかな 」


だれが思い付いたか分からない。上司が把握しているのかも分からない。

翌日、『お花レモンちゃん』は、来月中までに会社ビルの軒下の雑草を刈れと命じられた。





「整理券を取っとく それで日曜日に出掛ける 」

週末、ラインで会社の社員から伝言で、有名人がデザインしたタンブラーを買える整理券をもらう行列に並ぶように『お花レモンちゃん』は命じられた。

『お花レモンちゃん』が当然自分たちと過ごすと思っていた弟妹たちは、驚いた。

「オンラインチケットってやつじゃないの 整理券ってそれ違うの ネットってなんでも買えるんでしょう 」

「スマホでチケット映すと、イベント入れたり、物を買えたりするんじゃないの

「ねえ『オシベ』、『セント』、私、まだチケットって使ったこと無いんだよね。そういうとこ今度行ってみたい 」

『メイメイ』を揺らしながら『ネクタ』が言う。どちらかというとインドアな暮らし方の『ネクタ』は、イヤホンでモーツァルトを聞いて『メイメイ』の世話をしていれば一日経ってしまうので、まだ、人間社会の消費の仕組みについて、よく知らないことが多かった。

でも、『オシベ』にはまず優先したい心配事があった。

「もしかして、お姉ちゃんはモラルハラスメントっていう暴力を受けているんじゃないか 」

プライベートな用事は、休日は誰もがする筋合いではない。そんな用事が、人から人へ回されて、『お花レモンちゃん』のところへ回されてきたのだろうか。

ライン画面からは、真相は分からなかった。

『オシベ』の脳裏には、これから無限に、親密でも無い社員の用事を押し付けられ続け、『お花レモンちゃん』の時間が使われ続ける予感が流れ出した。

でも僕はまだなにも出来ない。

僕たちの生活を潰しに掛かってくる人間たち。僕はこの存在を、まだまだ勉強して、覚えなければならない。家族が危険になる。



ジョーカーは、植物星人からは出てこない。

エゴの中毒者は、人間から発生してくる。


虐げてもなにも人間側の都合に影響が無いターゲットにして、憎悪し続けてしまったことで、人間側たちに甘えが生じてきた。

人間たちの問題解決能力は使われず、向上せず、鈍り、錆び付き、凍り付きつつあった。


地球外生命体が、救世主であったなら人間たちには甘えが生じただろう。

地球外生命体が、悪の侵略者であったなら、人間たちは絶滅しただろう。

地球外生命体は、この通り、神にも悪魔にもなる気が無い植物であった。が、人間たちには社会現象としての甘えが生じつつあった。

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